No.004 自動車雑誌よ、どこへいくの?

長期に渡り自動車専門誌に関わってきた関係上、積極的ではないにしろ、自動車雑誌の動向が日々気になっている。
現在では私の孫、ひ孫(世代じゃないですよ!)の代が現場を担っている。だから、知っている編集者はほぼ皆無だし、多少交流があった直系世代の人も、フリーになるか、おエラいさんになっているかだから、とんとご無沙汰しているというのが偽らざる実情だ。

自動車雑誌のみならず、他の専門誌も含め出版事業は百年に一度の氷河期を迎えている。要するに売れないのだ。ひと昔前だと、出版は不況に強いと言われてきたが、今やその「かつて」はまったく通用しない。この不況がすべての既存の常識を受け入れないからに他ならない。それほどの背景があるから、ちょっと飛躍するが、オバマさんが「Change!」を訴えてアメリカ大統領に就任したことや、米ビッグ3が未曾有の窮地に立たされていることに「え〜っ!」と思うより、「時代だね〜」になるでしょ?
変化とは、残酷な面もあるけれど、人が営むにあたっての避けることのできない必然でもあるわけだ。

GMよ、どこへいく! などと1年前にでも想像できた人がいただろうか。
写真はキャデラック2009CTS。文字通りGMの威信を示したようなフラッグシップモデルだ。

一度コケたら、もうおしまい!

自動車雑誌に限らないが、雑誌事業の構図は簡単に言うと、販売部数と広告収入で成り立っている。販売部数と広告収入が減れば、当然儲けは減る。減るだけならまだしも、支出(編集制作費、紙・印刷代、人件費、固定費、雑費などを合算)が、収入を上回ってしまえば、いわゆる赤字ということになる。
どの事業でも同じ構図なのだが、雑誌の場合、販売部数が減るということは、すなわち共鳴してくれる人が減るということだから、よほどのことでもない限り部数は復活しない。よくリニューアルとか言って、タイトルデザインを変えたりしてるでしょ? あれ、10中9.9は部数衰退と思ってもらって間違いない。
さらに不幸なのは、そのリニューアルを行って見事復活した、という話しを私の経験では聞いたことがない。非情なようだが、雑誌には賞味期限切れが避けられないのだ。ものによってその期間に差があるとはいえ、いかなる雑誌(商品でもいい)にも永久安泰などあり得ない。

あのトヨタでさえ大胆さで勝負する

さて、自動車雑誌。私自身の反省も含めて、その作り方の独自性にいささか疑問を感じている。
何かと言うと、独特のパターンが形骸化していて、簡単に言えばどれもいっしょなのだ。いっしょとは、自動車への取り組み方を言う。
例えばテーマが新車だとすると、事前報道⇒登場報道⇒解説⇒試乗⇒周辺報道の繰り返し。
これ、好むと好まざるとに関わらず自動車メーカー主導でしか行うことができない。つまり、どれも似たりよったりにならざるを得ない。

事前報道は、かつては特別なものだったが、今度のプリウスのように、メーカーが戦略的に意図して何ヶ月も前にリリース(形は外国のモーターショーと試乗会だった)している。これこそが変化だ。もはや前代未聞などと考えてはいけない。世の流れだ。

 


1月13日付けのニュースリリースで発表された新型プリウス。一連のエコカー優遇措置も販売前オーダーを助長しているが、時代の変化を読み取り、選択と集中を実現させたトヨタの戦略は見事としか言いようがない。写真は北米仕様。

現に、未だデビューしてない新型プリウスに注文が殺到している事実を見れば、作戦が成功したことは明白。一見なりふりかまわずみたいに思ったら、それは誤解。入念に作成したトヨタ一流の「変化への対応」と見るべきだ。
そのようなことも含め、今や雑誌を購入しなくても、記者会見までも大方はネットで検索できてしまうところも雑誌にとってはつらい。つまり、今までは存在した雑誌のアドバンテージが限りなく崩壊しつつあるのだ。それこそが、前述した「避けることのできない変化」だ。

何を訴えるか、その一点!

その変化に対応することは決してやさしくはないが、自動車雑誌に対する先入観を一度払拭してみてはどうだろうか。自動車記事の常道が、「スクープ」、「新車」、「試乗」、「購入法」、「維持法」といったものだとしたら、一度それらを捨て去ることから始める。仮定の前提はこうだ。

1. クルマ好きの若者なんて、もう存在しない。
2. クルマのハード情報自体に雑誌への期待感が無くなっている。
3. 好むと好まざるとに関わらず、クルマの家電化は進んでいる。
4. クルマ好きだった世代も、数は多いが、いずれいなくなる。

次に明確なターゲット設定をする。もう年齢、性別、職業なんてキーワードはあっさり捨てる。完全にライフスタイル・カテゴリーでの設定に割り切る。
例えば、この2年間に限定すれば、安く、エコで、小さな幸せを感じたい層がとにかく多い。だから高速道路の1000円セールが終わったら、あっさりやめる。
たとえ短期決戦であっても、恋々としないで次を考える。そういう時代だ。

好きなこと言ってやがる、と思われるでしょう。しかし、これが現実であることを現役の自動車関連編集者、プランナー、ジャーナリストに知ってほしい。
かつてあなた達は花形だった。しかし自動車メーカー、ユーザー(読者)は、今はそう思っていない。それだけのことだ。今や駆け出しの経済アナリストの方が、よほど自動車が置かれた状況や未来に詳しいし、俯瞰して見る術を知っている。

もう一時代を築きたいと思うのならば、一度既成概念をバッサリ捨ててみなさいな。潔さこそ、日本人が古来より持つ究極の美意識なのですから・・・・・。
2009.04.15記


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